ラップ楽曲のClean ver.について
こんにちは。
先日、本ニュースレターの0号を配信したのですが、冒頭のあいさつを「こんにちわ」と記載してしまい、早速「こんにちはですよ^^」とツッコミを頂いてしまいました。恥ずかしい限りです。改めて、「こんにちは」の誤りでした、と訂正させていただきたく思います。左藤公郎さん、ご指摘ありがとうございました。ニュースレター、引き続き皆様のご登録をお待ちしております。
先日、息子が通っている保育園でヒップホップ・ダンスのカリキュラムの参観があり、そこで外部のダンス講師の方が過激な表現が含まれる英語のラップ楽曲を使っていてびっくり仰天した〜という出来事がありました。
そのことをXにポストしたらめちゃくちゃ伸びてしまって、気がついたら200万を超えるインプレッション数になり、これまたびっくり仰天でした。みなさん、関心がおありなのかなと。その際に「せめてClean ver.」にしてほしかった、ともポストしたのですが、もしかしてラップの楽曲におけるClean ver.ってあまり認知されていないのかな、とも思いまして、今日はラップ楽曲のクリーンver.(クリーン・ヴァージョン。以下、Clean ver.)について書きたいと思います。
また、先立っての告知になりますが、私が毎週配信しているポッドキャスト番組「ヒップホップ茶話会」ではプロのダンサーであり教育者でもあるSONNYさんをお迎えして「キッズダンスとヒップホップ」について深くお話を伺っております。6/28と7/5(ともに金曜日)の17時に配信予定ですので、こちらのトピックに興味がある方はぜひ配信後に聴いてみてください。
以下、「もうすでに知ってるぜ!」という方も多い情報だと思うので、そうした方は読み飛ばしてくださって大丈夫です。
Clean ver.とは何なのか
かつてレコードでDJをしていた世代の方にはとってもお馴染みかと思うのですが、例えばシングル楽曲のレコードを買うと、片面は「Original ver.」とか「Dirty Mix」とか書いてあって、裏面には「Radio ver.」とか「Clean Mix」と書いてあることが多いのです。どういうことかというと、
▪︎Original / Dirty = 過激な単語がそのまま収録されているヴァージョン
▪︎Radio / Clean = 過激な単語はミュートされたり他の単語に差し替えられているヴァージョン
という意味です。アメリカはラジオのヒップホップ専門局であっても、流すのは「Radio / Clean ver.」と決まっているほか、ラッパーがTV番組やアウォード賞(グラミー賞とか)でパフォーマンスをする際も、過激な放送禁止用語は全てミュートするか他の単語に差し替えたヴァージョンをラップしています。という背景があり、販売するレコードにもちゃんと2種類を収録しているということなんですね。かつてはDJがラジオでも曲を流すことを想定してレコードが売られていたりプロモーションとして配布されていたりしましたので、わざわざレコードにも「ラジオや公共の場所でも掛けられまっせ〜」という意味を込めてClean ver.を収録していたのだと思います。
例えば、(レコードの時代ではないですが)赤裸々なリリックとMVが話題になったカーディ・Bの「WAP ft. Megan Thee Stallion」(2020)にもちゃんとClean ver.が存在します。
▪︎Original ver.のリリックの一部 (**表記は筆者によるもの)
Yeah, you f**kin' with some wet-a** pu**y
▪︎Clean ver.のリリックの一部
Yeah, you dealin' with some wet and gushy
"F**kin' with" が "dealin' with"になるなど、オリジナルでラップされているFワードやPワードが他の単語に変わっています(ちなみにカーディ自身はこのClean ver.の歌詞が嫌いらしい)。
西海岸出身のラッパー、YGがNワードを多用した楽曲「My Ni**a」をリリースした際も、ラジオ向けにNワードを「Hitta」というフレーズに変えたClean ver.を発表しています。
というわけで、放送禁止用語などを抜き、子供が聴いてもOK、かつ公共の場所でも流せるものがClean ver.なのです。
Clean ver.は、どこで聴くことができるのか
今はわざわざ12インチのレコードを買わずとも簡単にClean ver.を聴くことができます!YouTubeの検索バーに「曲名+ clean」と入れれば、簡単にヒットするのではないでしょうか。また、Apple MusicやSpotifyでも、たくさんの作品のClean ver.が配信されています(こだわり派のあなたはClean ver.が収録されている好きなシングル曲をレコードで買ってから聴いてみるのもなかなかオツだと思います)。
例えば、ジェイ・Z『The Blueprint』というアルバムの場合。こちらはApple Musicの画面ですが、アルバム情報を下までスクロールすると「その他のバージョン」というタブが現れます。「その他のバージョン」をタップして現れるのが、Clean Ver.です。
←オリジナル Clean ver.→
「見ただけだと違いが分からねー!!!」という感じなのですが、オリジナルの方はジャケットの左下に「Parental Advisory」という白黒のロゴが配置されているのがお分かりでしょうか。有名なロゴですが、これは「過激な表現が含まれるので、子供が聴くときは親御さんが気をつけてあげてねー!」というものです。ちなみにアメリカで初めてこの「Parental Advisory」が付けられたCDは2ライヴ・クルー『Banned in the U.S.A.』(1990)だそうです(R.I.P. ブラザー・マーキス!)。
そして、オリジナルの方は曲名の横に「E」というマークが付いていることにもお気づきでしょうか。
これは"explicit"の「e」で、explicitには"過激な、不適切な"という意味があります。ですので「E」マークが付いている楽曲は、基本的に子供に聴かせるのは不適切、ということになるんですね。Clean ver.の方にはこの「E」マークが一つもありません。ちなみにストリーミング配信における「E」マークは日本のアーティストにも適用されていて、アーティストは各種サービスに楽曲を配信する際に、「過激だな」と判断したら「E」マークを付ける仕組みになっています。ですので、子供と曲を聴くとき、キッズダンスでヒップホップ系の楽曲を使用したいときなどはClean ver.を探すか、「E」マークが付いていない楽曲を選ぶことをお勧めします。
Spotifyも大体同じで、アルバム情報を下までスクロールすると別バージョンを示す箇所が出てきます(全ての作品が対応しているわけではないのでご注意を!)。
他、ラップのClean ver.をまとめてプレイリスト化しているユーザーもいるので、特に一般ユーザーのプレイリストにリーチしやすいSpotifyをお使いの方はぜひ「rap clean ver.」みたいな感じで検索してみてください。あと、Apple Musicには【ラジオ】という素晴らしい機能もありまして、ここで流れる楽曲はほぼ全てClean ver.です。私も、家に子供といるときはよくApple Musicの番組を流していて、ラップ系だと新譜を網羅してくれる「THE EBRO SHOW」あたりを流していることが多いです。Clean ver.だと、「F**k」や「Bit**」、もちろんNワードもありませんので、「子供の前でいきなり不適切なワードが流れちゃったらどうしよ…?」とヒヤヒヤしながら聴く心配もありません。もちろん、単語そのものは避けられたとて、そもそもの曲全体の内容やコンセプトは変更できませんので、その辺りは各自の判断で、ということになります。
さいごに
アメリカでは「Parental Advisory」の規定や放送禁止用語の指定・区分がはっきりしているのですが、日本は曖昧だなと感じます。私自身も、ラジオ番組のパーソナリティを担当しておりますが、オンエアする楽曲については局やプロデューサーごとに対応が異なると感じております。日本には一律の規定がないからいいや、ということではなく、状況によって気をつけて判断せねばと再確認いたしました。そもそもの話ですが、日本のラップ楽曲というか音楽業界にはこうしたClean ver.自体が存在しません。今後、日本でもラップ楽曲がよりポピュラーになるのであれば、この辺りの整備や配慮も必要なのかな〜と感じています。
あと、「別に気にしなくてもいいじゃ〜ん(笑)」という方も多くいらっしゃると思うので、もちろんんそれぞれのご家庭の方針のもと接していただければとも思うのですが、年齢の低い子供たちを教育・指導する現場ではできるだけ配慮することが必要なのではと感じております。
以上、何かのご参考になればと思います。また次回のニュースレターでお会いいたしましょう。
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