Bonberoのワンマンライブと若者の間に流れる時間の速さ
先月、予期せぬ出来事などがあり、いきなりニュースレターの更新が滞ってしまいました。8月は気合を入れ直して頑張ります。また、今回の記事も、読者登録をしてくださったメンバーの方のみに公開しております(登録自体は無料です)。どうぞご了承ください。
先日、Bonberoさんのワンマン・ライブに伺いました(本記事のサムネイルにしている画像は、私がiPhoneで撮影した動画のスクリーンショットを使用しています)。場所は渋谷WWW X。開始時間と同刻くらいに会場に入ったのですが、もちろんパンパン。チケットはソールドアウトで、当日券も出なかったそうです。Bonberoさんの前に同じクルー(夜猫族)のTade Dustさんがフロント・アクト的にステージに立っていたのですが、そこからすでにお客さんはTadeさんのラップを一緒に合唱していてすごいエネルギーを感じました。ライブ本編も素晴らしかったし、彼の持ち味であるファストなフロウが全くダレないことにびっくり。ずっと100%でラップし続けていて、すごいバイタリティってかスタミナだな〜と思ってみていました。その勢いたるや、まるでTwistaかTech 9ineかって感じ(平成のリスナーに伝われ)。
夜猫族といえば、6月下旬に幕張メッセで行われたフェス、STARZに出ていた夜猫族のステージを観てからnomaさんのことがとても気になっていたのですが、この日もnomaさんはとても太々(ふてぶて)しい態度でライブしており、さらに好きになりました。ご本人は「不遜」と言い表していらっしゃったけど。ステージの上で不遜な態度をぶつけることができるラッパーって、最近はすごく少なくなっていると感じます。かつては愛想悪くて不遜なラッパーの方がたくさんステージに立っていたような気がするのですが、私はそうした態度(アティチュード)にもヒップホップ的なドープさを感じます。荒削りな危なっかしさと太々しさを兼ね備えているラッパーのライブは見ていて気持ちいいな、と思う。nomaさんは太々しくもあるけど歌詞は繊細なので、その辺りも魅力的だなと思います。
で、Bonberoさんのライブの後は会場内で関係者の方とすっかり話し込んでしまい、そちらもまた有意義な時間だった。やはりこうして実際に話さないと分からない、そしてシェアできない”感触"みたいなものがありますよね。
Bonberoさんは2003年生まれ。私が地元の広島から東京に上京したのも2003年で、私がずーっと渋谷でテキーラ飲んで過ごしていたこの20年とちょっとの間に、こんなに優秀なラッパーがこの世に生を授かり、そして立派にステージを踏んでいるとは…と勝手に感慨深い気持ちになってしまいました。Bonberoさんには3年くらい前にインタビューをさせてもらったことがあるのですが、その時とは比べ物にならないくらい堂々としてカリスマティックなラッパーに成長していらして、時の流れの速さとヤバさを感じた。
若い世代の方と話している時によく感じるのは、時間が流れる速さが全く違う、ということ。以前、20代前半のアーティストの方に「前の取材は3年前だったよね〜」と何気なく声をかけたら「うわ、めっちゃ前ですね!」と返された。私にとって"3年前”は結構最近の感覚なんだけど…。そして、私の"めっちゃ前"は10年くらい前って感覚なんだけど、若者にとっては違う。そりゃそうか。特に、2020年からのコロナ禍を経て、さらに世代間で"時間が流れる体感速度"が違っている気がする。私は2020年に子供が産まれたので、そこからの現在までの4年間は「まじであっという間!」って感じなんだけど、行動を制限されまくっていた若者にとっては、焦ったくて果てしない時間の感覚だったはずですよね。そしてコロナ・ウイルスが猛威を奮う中でも、日本のヒップホップ業界は歩みを止めず、気がついたら大きなヒップホップ・フェスがいくつも立ち上げられるようになった。1999年生まれのライター、もこみ(最込舜一)さんがGQに寄稿していた、こちらのPOP YOURS考察記事が興味深かったです。
途中、「大学生になったら『POP YOURS』には絶対遊びに行きたいです」という一文が挟み込まれていて、妙にリアルに響いてしまいました。私は"大学生になったら絶対上京したいです"という思いで大学に進学し、上京とほぼ同時に渋谷のクラブ街にたむろすようになって、それが現在の仕事につながっている。POP YOURSに集まる若い群衆もそうだし、Bonberoさんのライブに集う若者たちを見ながら「この子達はどこから来て、これからどこに行くんだろう。5年後、10年後もこうやってヒップホップのライブの現場にいるんだろうか」とぼんやり考えており、「何だか私とは全く別次元の人間たちだナ〜」と距離感を覚えていたのですが、もこみさんの記事を読んで「もしかしたらこうした若者の中にも、未来の私みたいな子がいるのかも」と、恐縮ながら感じたんですよね。「一緒じゃん」みたいな。さすがに厚かましすぎるか。
余談ですが、もこみさんも寄稿しているGQ JAPANの記事は「ヒップホップ・ジャパンの時代」という短期連載記事で、私もコラム的な序文的なテキストを寄せております。
あと、POP YOURSとはいい意味で対照的なヒップホップ・フェス、THE HOPEの実行チームの方へのインタビュー記事も担当しております。
「初年度の集客数はコロナ禍の制限もあって10000人ほどだったんですが、わずか1年で観客の数が3倍になるということも考えていなかった」と仰っていて、1万人の観客数が翌年には3万人にまで膨らんだという事実がとにかくすごい。今年はどうなることやら。
時間の感覚ってことで言うと、昔は「ジジイになってもラップします!」的なスタンスの方が多かったように思うけど、最近の若いアーティストと話していると「30歳くらいになったらラップを辞めてプロデューサー的な立場になりたい」というような方も少なくない。実際にBAD HOPは解散して、YZERRさんは表だった音楽活動から退く方向だと言っていた。方や、IOさんはアーティスト活動を続けていくうちに、「プレイヤーとしての姿勢を見せ続けたい」と、考え方が変化していったということを私が担当させてもらったインタビューで教えてくれた。
そしてこれは今年のインタビューだけど、LANAさんは将来「安室ちゃんみたいに引退したい」と言っている一方で、7さんは「イカつい系のオバさんにな」ってラップを続けたいと言っていて、この辺りの感覚の違いも面白いなーと思いながら両者の話を聞いていた。永続的なキャリアとしてのラップと、若い衝動の発露の場としてのラップ…本人はそこまで考えていないかもだけど、そういう点にも着目して聴いてみるとまた面白いのかもしれません。
そういえば、7月は女性アーティストへのインタビューが立て続けにありましてとてもいい刺激になりました。成人したばかりの方もいれば、二児の母という方もいて、現在妊娠中というアーティストの方も!贅沢な仕事をしているな、と実感した次第です。というわけで、最後に最近のインタビュー仕事をシェアしておきます。それではまた、近々お会いいたしましょう。
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